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スペインでチームを率いる19-20 (5) プロになる中学生

皆さん元気ですか。アジアから始まったコロナウィルスはこちらスペインでも猛威を奮っています。「なんで日本では感染者も死者もそんなに少ないの?」と聞かれます。こちらスペインは先日政府が緊急自体宣言を発表し、外出禁止令が出ています。定められた理由以外で外出している者は罰金を課せられるようになりました。学校は当然休みになり、多くの仕事が停止。レストランやカフェも閉まりました。医療、警察、研究、スーパーマーケット、銀行、郵便局などの「最も必要な」仕事に就く人々が活躍しています。ラジオをいつも以上に聴くようになりました。我々のサッカーはというと?勿論全てストップです。アルゼンチン人バルダーノ氏の言葉を思い出します。「サッカーというのは『世の中の必要ではないもの』の中で最も大事な存在だ」。まさにその通り。あれだけ毎日世間を賑わせてたサッカーが今ではその存在すら忘れられたかのようです。

 記事の更新が滞っていたので、僕自身の現場活動について書きたいと思います。この時期というはプロ・アマに関係なくシーズンの三分の二くらいが消化されている段階です。僕が責任者を務めるダノクU15は相変わらずリーグ中位をうろちょろしています。互角に戦うこと自体にかなり苦労した前半戦に比べ、後半戦は内容で相手を上回る試合が増えてきました。選手が着実に逞しくなってきている手応えがあります。クラブからの僕自身の評価はおそらく「まぁまぁ」。順位としては昨年の学年よりは良いけど、引き分けが多すぎるよねという感じです。

中学年代で学び始めるサッカーの厳しさ

 この時期(2-3月)になると思うこと。それは「サッカーはマラソンに似ている」ということ。メンタル的にはある意味この時期が一番難しいかも知れません。なぜならそこは中盤でもなく、終盤でもない微妙なタイミングだからです。シーズンの折り返し地点はクリスマスです。ここでみんな気持ちもリフレッシュします。しかし次の給水ポイントは4月の春休み(イースター休み)と少し遠いんですよね。なので指導者も含め多くの人がそこまではもちません。特に14,15歳といったまだまだ経験の少ない選手達は尚更です。それまでに疲弊したり、気持ちが弛んだりしてしまいます。

 そんな中、先日は緩んでいたチームに対してこんな話をしました。内容はサッカーが持つ、地味な厳しさについて。「皆んなが惚れたスポーツの本当の正体がわかってきたかな?サッカーっていうのはある意味ものすごく『めんどくさい』スポーツだよ。試合が終わってはすぐ次の試合がやってくる。そして試合が終わったらまた直ぐ月曜日の練習がやってくる。小学校の頃は皆んな自チームで王様だった。皆んながちやほやしてくれた。でもここに移籍してきてからはただの『一員』だ。このクラブに昔からいるメンバーはわかるよね。5年前のメンバーと比べて、今何人その時のメンバーが残ってる?ここにいるのは選ばれた人だけだ。そしてここから試合に出れるのは11人。皆んな分かってると思うけどサッカー選手は試合に出なかったら上手くならない。だからモチベーションを整えて練習場に向かい、決められた時間通りに着替えて、練習でいいパフォーマンスを出さないといけない。そしてそれで終わりじゃない。やっとスタメンを勝ち取ったら今度は試合で結果を出さないと。対戦する相手は昨年までとは違うよ。みんな一学年上の奴ら。どの試合もギリギリの戦いが強いられる。このルーティーンをずーっとやらないといけない。これがサッカーをすると言うこと。おまけに俺たちはこれでお金を稼いで生活したいと思ってるんだから。今シーズンなんてまだまだ皆のキャリアの序章に過ぎない。これからもっとレベルの高い相手と試合をするようになるだろう。ポジション争いをするチームメイトのレベルも上がっていくだろう。皆んなの歩む道は本当に長くて険しい道なんだ。でもこの道を進む唯一の方法は?毎日の練習にしっかり励むこと。だから今日の練習を頑張ろう。スタッフ全員でみんなを応援してるよ。

 今回のテーマに限らず、この手のミーティングは定期的に行わなければいけません。中学生になるとただ単にサッカーが好きだから、サッカーがうまいからだけでは乗り越えられないことが出てきます。そして上を目指す選手をそれをクリアしていかなければいけません。我々指導者の仕事はそこで、それらの壁はどんなもので、それをなぜ乗り越えなけばいけないのかを折を見ながら語りかけていくことですね。

プロになる選手が持っているもの?

 そんな中、チームの中で一人、このマラソンをぶっちぎりで走り抜いている選手がいます。こういった選手と一緒に仕事をすることができるのは指導者として本当に幸運なこと。天の恵みです。彼のような選手には我々は助けることより助けられることの方が多いですね。今回はその選手が何がすごいか少し書きたいと思います。

 まず単純に選手としてのレベルが高い。僕は県内の彼と同い年の選手を全員知っています。スカウトを兼ねて徹底的に選手を調べあげています。そんな中、彼と同じポジションで彼より優れた選手は県内に2人しかいません。その2人のウチの一人はアスレチック・ビルバオ下部組織の選手。スペイン代表にも選ばれ、バルサがラブコールを送っているくらい今の段階では国内トップレベルの選手です。ただこの先どうなるかわかりません。彼はその選手よりも今の段階では劣るかも知れませんが、彼は他にこんなこともできます。そしてこれらの要素はプロになる上で才能に劣らず重要だと思うからです。まず何より強烈な負けず嫌い。基本的にダノクにいる選手の多くはかなり負けず嫌いです。ただ彼はその中でも別格。この歳でここまで強いパーソナリティを持っている子は珍しいです。その目力で持って同僚を後ずさりさせることができるくらいのパワーを持っています。まだ若いのでそのエネルギーを操ることはできず、しばしば間違えてしまうこともありますが、大きな問題ではありません。そして彼は公式戦の一番苦しい時にみんなの先頭に立って戦える選手です。逆境の時こそ声を出してチームを鼓舞し、自分のプレーでチームを助けてくれる存在です。あと何気ないことですが、怪我を一切しません。これはサッカー選手にとって非常に大事な要素ですよね。そして彼の一番の特徴はこれ。毎回のトレーニングを身体が壊れるんじゃないかと思うくらい全力でやることができるメンタリティを持っています。「お前は15歳でありながらクリスチャーノ・ロナウドと同じメンタリティを持ってるな」と伝えたこともあります。サッカー選手の本当の価値というのは短い時間では見えてこないものです。最初の数ヶ月だけ頑張れる選手はたくさんいます。でもシーズン立ち上げから7ヶ月経った今でも勢いを弱めることなくフルスロットルで練習に迎える中学生は中々いません。彼はほぼ全ての試合に出場していますが、それは決して指導者のお気に入りだからではありません。出さない理由がないんです。毎週のポジション争いに常に勝利しているだけなんですよね。

 彼と一緒に活動させてもらってきて感じることがあります。こういう奴がプロになるんじゃないのかな?こいつが持っているものってプロになる為に一番大事な要素なんじゃないかな?こいつがプロになれない時はどんな理由があるんだろう?と。記事の前半で紹介したミーティングを行っている最中、各選手の様子を見渡していきました。その時、23人の中で一番体を前のめりにさせて僕の話を聴いていたのが彼でした。それを見た時は思わず笑いそうになりました。「いやいや。お前がこの話を一番聞かんでえー奴やのに」と。

サッカー指導者

岡崎篤

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