IMG_5511

スペインでチームを率いる19-20(11) チーム解散は個人面談で

家の近くで撮った写真です。コロナ危機でストップした工事現場。そのまま放置されたトラクターが菜の花に覆われていました。サッカー現場の写真がもうないのでこれを使ってみたいと思います。と言うわけで、ホルヘ・バルダーノがこんなことを言っていました。それはサッカー指導者が持つべき心得について。「一生かけてそのクラブで働くと思って、行動しなさい。勿論、明日首になってクラブを去るかも知れませんが」。ある本を読んでいて、この言葉に出会ったのですが、なぜかすごく気になってメモしました。

皆さんが今、クラブに求められていることは何ですか?それは十人十色。クラブによって違うはずです。立場によっても違ってきます。指導する選手の年齢によっても、競技レベルによっても、変わってくるでしょう。

この記事を読んでくださっている方の中には、育成年代の選手と仕事をされている方が多くいらっしゃると思います。僕もその一人です。育成年代の選手というのは、そのクラブの財産。きっとその選手達の役に立とうとすることは、クラブに貢献することに繋がるはずです。

僕の場合。シーズンの7割が過ぎた状態で、コロナ危機に見舞われました。自粛期間中にチームが解散することが決まってしまいました。「残り2ヶ月で選手と沢山やりたいことがあったのに!」とむちゃくちゃ悔しかったです。そしてコロナが明けて、次選手達と会う時は、もう監督と選手の関係は終わっています。この関係がまだ成立している間に、何かしたい。そう言う気持ちが自粛期間中、日に日に大きくなったのを覚えています。

そこで「個人面談をもちかけよう」と思いました。「残りの2ヶ月でじっくり伝えたかったことも伝えられるし、いい案だ」と思いながら。上を目指す選手であればあるほど、喜んでもらえるに違いない、とも思いました。そして今、この面談ができるのは僕しかいません。今シーズン、サッカー面で彼らを一番見てきたのは自分だからです。

参加してくれなかったらどうしよう

そういうわけで選手達に「やりたい奴おる?」と聞くことにしました。任意参加にしました。半強制的にやらせるのは違うよな、と思ったからです。あくまで、選手側がやりたいと言ったら「それなら喜んで」という流れが自然だと思ったので。学びの専門家マリア(元Aビルバオ・現カタールAspire)(マリアビデオ販売はこちらが言います。「フィードバックは贈り物。ただ、受ける側がそれを聞きたいと思った時に限ります」と。選手達には「耳の痛い話もすることもあるからね」と伝えました。

内心不安でした。「ほんまにやりたいって思ってくれるかな?」「何人手を上げてくれるんやろう?」「これで5人とかやったら、むっちゃ寂しいやん」と。年頃の中学生が、わざわざ自分から監督に連絡して、1対1で話をしたい、なんて言ってくれるのでしょうか。これまでやったことない取り組みなので、どうなるかわかりません。

何よりまず僕自身がまず測られますよね?「あいつ嫌い」とか「あいつとは話したくない」とか「あいつと話しても意味がない」と思えば当然連絡をしてこないでしょうから。

おまけに、相手はスペイン人達です。努力や勤勉性に強い美徳を見出す日本人とはちょっと違います。「何かを学ぶ」と言う姿勢も違います。あと、建前で行動しない。興味のあるものには積極的に行動しますが、そうでないものには、あからさまなくらいエネルギーを注ぎません。ある意味「分かりやすい」人種でもあります。だからこそ余計不安でした。

また、丁寧にアナウンスしなければいけないこと、が1つありました。それは「来年の契約とは関係ない」ということ強調すること。なぜなら、この時期は来年の契約や移籍等で、ナーバスになっている選手がいます。特に、出場時間が少なかった選手はクラブと話をするのは身構えます。僕と話すことでさえ「来年お前の居場所はない」「レンタルで出すよ」などと告げられるのではないかと、警戒し兼ねないわけです。なので、この面談はクラブのそれとは一切関係ないよ、と強調しなくてはいけませんでした。

蓋を開けてみると、7、8割くらいの選手から「話をしたい」と連絡が届きました。これが多いのか少ないのか、わかりません。でも正直ホッとしました。もちろん、連絡がこなかった選手もいたわけです。そして、その選手達の殆どは出場時間が最も短かかった選手達でした。

選手が話しやすい空間を作る

連絡がきた選手には前もって「3つのことを聞くからね」伝えました。

・得意なこと

・苦手なこと

・今シーズン成長したと思うこと

valoracion2

これは僕が個人的に作っている選手の個人評価シートです。内容はある選手のものを日本語訳しました。このシートを手元に控え、選手とビデオ通話します。

面談がスタートします。大事なことは、まずは指導者が話すこと。「選手に話してもらわないと」と意気込んで、最初から「どう思う?」なんて発問したらいけません。当然ですが、選手は話してくれません。まずはトークのリズムを作って、選手が話しやすい場を作ります。

僕の場合は、世間話しなどサッカーには関係ない話を少しします。そして、まずは客観的な情報のやり取りから始めました。簡単なデータを元にその選手の一年を振り返ります。そこで触れるのは例えば、こんな内容。

・このクラブ何年目のシーズンなのか

・合計の出場時間は何分か

・スタメンで出た試合を時系列に思い出して行く

・怪我や風邪をした時はいつだったのか

・その他個人的な出来事の回想

ゴールを決めた試合や、いいプレーだった試合があればここで触れます。

ざぁっとこれで10分くらいこちらが話すことになります。こうすることで選手は徐々に1年を思い出していきます。そして、1年という尺で持ってシーズンを振り返ることができます。直近の数ヶ月の印象だけで一年を振り返ることを避けます。ここではあまりこちらの主観が入らないように心がけました。

選手が面談をデザインする

そこで、本題に入っていきます。「じゃぁ、具体的にお前のプレーの話をしていこか」と。ここで初めて選手が話します。本人が思う、得意なプレー、苦手なプレーについて。そして今シーズン成長したと思うこと。この3つを話してもらいます。

選手の中には、しっかりノートに書いて、それを読み上げる子もいました。頭の中で考えてきたことを言う子もいました。あんまり準備もせずその場で結構考えてるな、という選手もいました。それぞれ個性が出て面白い。そして、この選手のコメント次第で、この面談がどこに向かうかが決まっていきます。

いやぁ、すごく面白かったです。何より時間をしっかり取れたのが良かった。平均すると45分くらい。自然で心地いい長さでした。いつもサッカー場だと15分程度なので、発問して、その答えからテーマが決まっていくと言うことがやり辛い。その分、今回は深い話ができて、色んな発見に繋がりました。

必ずといっていい程、予想していなかった発言が出てきます。意外なコメントといいますか。お互い見てる景色がここまで違うのかっていうこともありました。

あとは自分が指導者としてその選手のどこに影響を与えていたのかも、何となく見えます。その選手が触れる内容や、使う語彙を通じて。また、中には、自分がシーズン通して強調したことが本人から全く出てこなかった選手もいました。「結構言うたけどなぁ笑」とちょっと凹みます。

と言う具合に、選手側の想いをできるだけ汲み取りながら、話を展開していきます。ある意味、選手に船頭役を任せることになるわけです。リスクもあります。なぜなら、自分の知らない場所に連れて行かれることもあるから。そしてそのまま、一緒に迷子になってしまう時もあります。因みに、僕はこれよくあります。「すまん。俺もわからん」と自分の実力の無さを痛感する瞬間です。ある意味、抜き打ちの実力テストを受けている心地です。

話す前にしておくこと

ですので、できるだけそうならない為にも、ある程度の準備が必要です。「面談したけど全然ためにならへんかったー!」と思われたら元も子もないですもんね。そういう意味では、その選手を多角度から見ておくことを意識しました。上で紹介した評価シートは役に立ちました。その選手のことを偏った角度からしか見ていないことに気づかせてくれるからです。とは言え、しっかり書き出すだけではどうしようもないこともあります。そこは自分の専門性の低さを恨む他ありません。もっと指導者として色んな経験をするしか、改善策はないなと思いました。

準備の段階で大事なことが2つあります。一つは、その選手の立ち位置を頭にいれておくこと。チーム内には、色んな立ち位置の子がいます。完全なレギュラー、レギュラー争い真っ最中の選手。まだクラブ一年目で慣れるのにやっとの選手。それぞれの立ち位置によってこちらが話す内容や話し方も変わってきます。そしてもう一つは「何を目指しているのか」。同じ立ち位置でも目指すところが違う選手がいます。例えば、完全なレギュラーの子の多くは、プロクラブから声が掛かるのを意識します。でも中には、全くそうでない子もいます。純粋にサッカーをすることだけが好き、だとか、その逆もあるでしょう。あとはこのクラブでやるのが好きなんだ、だとか。何を拠り所にサッカーをしているのかをある程度知っていないと「タメになる面談だった」と思ってもらえません。

話す内容は選手がデザインすると言いました。でも「これだけは絶対伝えたい」と言う内容は、勿論あります。そこは、しっかり頭に入れて起き、「ここかな?」というタイミングを待って伝えます。僕は手元の評価シートには、太字や赤文字で強調して忘れないようにしていました。話に集中して、忘れてしまったら、もうその時間は絶対帰ってこないので。「これは絶対忘れたらアカンやつや」と意識しました。その内容の中には、徹底的に褒めるものがあります。でも、理由をしっかり説明して褒めます。同時に、厳しい、痛みの伴うようなものも。選手の中には、自分の一番辛い場所を突かれるので、凹んだり、怒ったり、泣いてしまう子もいました。

最後に

この面談が事実上、監督として彼らと話すラストの機会になりました。面談の最後には大事にしていることを伝えます。「これで選手と監督という関係は終わりやね。これからは俺はお前の1ファンや。来季コロナも落ち着いて、お前のピッチ上でプレーを見るのをすごく楽しみにしてるよ」と。あと最後に「お前がよければ今後は友達になりたいとも思ってる」とも。友達になるというのは直ぐには無理ですし、全員とも無理です。でもそれは心から思ってることでもあります。事実、これまで指導してきた選手の中でもいまでも連絡を取り合って、仲良くしている選手がいます。アシスタントコーチをしてくれたメンバーもいました。去年クビになった時も、結構な数な教え子が連絡をくれました。やっぱりサッカー現場でやっているとこういうのが一番嬉しいですよね。

最後に、こちらの人が友達に対して使うセリフを紹介します。僕自身も、本気でそう思っている時は使う言い回しです。「Me tienes para siempre y para lo q necesites 」直訳すると「お前は俺をいつまでも持っている。そして、それは何の為にでも」。無条件でその人のことを応援したいと言う意味で僕は使っています。今回の面談の目的も、今思えば、無条件の応援だったように思います。人数分の準備と面談時間は中々の時間とエネルギーを要しました。アシスタントコーチには「お前は頭おかしいやろ」と言われました。でもお陰でいい顔で面談を終えていった選手を見ることができました。自分自身も後悔のない終わり方ができたと思います。

と言うわけで、こんな風に、僕のスペイン10シーズン目は終わっていきました。そろそろビルバオからも国際線フライトが復活します。日本に帰る準備をしていきたいと思います。

追伸

実は、面談の最後の方で、僕も選手にフィードバックをお願いしました。「もし良かったらでえーねんけど、俺の良いところと、アカンところ教えてくれへん?指導者として」と。時間を取りすぎるのもアレなんで、一個ずつ言ってもらいました。すると、結構出てきましたんです。これ、かなり良かったので、次回紹介したいと思います。日本人指導者が海外で監督をする上でぶつかる壁なんじゃないかなと思うこともありました。

お知らせ

この夏もお陰様で講習会の開く運びになりました。コロナ問題で諸々、いつもとは違ったことが出てくるかと思いますが、皆さん、ぜひご参加の方ご検討ください!詳細はまた追って報告させていただきます。

kokuchi

Comments