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スペインでチームを率いる18-19(19) 3つ目の基準「プロジェクト」

 サッカーチームを率いるというのは何かを創り上げていく作業です。しかしそれと同時に結果を出し続けることも求められます。これら二つは同じ方向を向いている時もあれば、反対方向を向いて背反の関係を取ることもあります。そんな時に矛盾し合うこの2つのテーマを同時に追い求めなくてはいけないというジレンマがチームを率いる上での難しさです。

創り上げる前の段階

公式戦が始まるまでに与えられた時間は1ヶ月程。このプレシーズンと呼ばれる期間はチームを創り上げる期間だと言われます。しかしそれは不可能です。あれよこれよという間にリーグ戦が開幕し、シーズンがスタートしてしまいます。そこからはこちら(監督)が時間をかけて選手達の良さを見極めることに集中することはできません。仮にその作業を優先したことが原因で試合を落とすようなことがあれば、まずいことになります。それはチーム内、クラブ内における求心力という意味で。そしてそのミスが積み重なった時には選手やクラブとの間の信頼関係に亀裂が生じ始めます。選手のことを知るというのはすごく時間がかかります。しかしその過程を飛ばしては本物は絶対に創れません。主人公である選手達から湧き出るエネルギーや喜びがないチームは途中でガス欠になってしまいます。

選手が監督を知ることだって同じです。選手達は自分(監督)が求める内容を理解し、それをチャレンジしてピッチで体現しようとします。しかし、その過程で必ず発生するミスの存在をサッカー界は許しません。選手達はそのチャレンジしようという思いと失敗に対する恐怖の間を右往左往します。心地良さを優先し、安全地帯から出てこようとしない選手が多くいます。ただ監督はある意味それを尊重すべきです。なぜならその安全地帯の中には本人にとって大事なものが沢山詰まっていますし、同時にそれはチームにとって有益なものに成り得るからです。でも同時にこちら側の要求も聞いてもらわなければいけません。選手にしっかりと説明を行った上で時間をかけてそれに寄り添います。応援したり、喧嘩をしたり時には強要しながらこちらの注文を体現してもらおうとします。そのさじ加減が難しい。強要するだけでは勿論選手は話を聴いてくれません。大事なのは成功体験を必ず得させることです。こちらの要求を聞いてくれた選手がそれにチャレンジしながらもミスを犯し、それが仮に失点の原因になってしまったらどうでしょう?細心の注意が必要です。選手の気持ちが離れてしまっては元も子もありません。

そこで大事になってくる存在が結果です。試合の結果というのは人を盲目にさせる力があります。良い結果というものは選手が周囲から受けるプレッシャーを軽減してくれます。選手を失敗に対する恐怖から開放し、チャレンジしてみようかなと思わせてくれます。我々指導者の発言力もあるレベルまでは保証されます。つまり監督は結果を出すことを第一に優先しながらその中で、選手と監督の両者が理解しあっていくその妥協点を常に模索していくわけです。そしてこの作業自体は「何かを創り上げていく」作業の手前にあるものです。それは物凄いエネルギーを消費しますし、時間でざっと見積もっても半年くらいはかかります。

自分のプロジェクト

僕はこの2年間U16年代を率い、2回とも新しいメンバーと「はじめまして」の状態でチームを創りはじめました。残念なのは、お互いがわかってきた頃にはもうシーズンは終盤に差し掛かかっているということ。事実上、自分達が創り上げてきたものを楽しむ時間というのは殆ど残されていませんでした。「これからなのに」と寂しい気持ちなります。それもあってか今回チーム探しをする中で「2年以上のスパンでチーム作りができる場所を探そう」という気持ちが日に日に強くなっていきました。これが僕でのプロジェクトという言葉の意味です。今年チャンピオンズを獲ったリバプールもプロジェクトです。プレミアリーグを制したマンCもプロジェクトです。ユベントスもプロジェクトです。アタランタもそうです。大躍進のトッテナムに関しては今季1人も新しい選手を獲ってないという意味で純度100パーセントのプロジェクトです。皆、一年以上の時間を掛けて魅了的なものを創り上げています。

じゃぁ自分にとって理想のプロジェクトはどこにあるのか?そんな事を考えていた時期のある日、ふと降ってきたわけです。「デウストじゃないか」と。これまで2年指導してきた2つの学年がU19年代に進むの来シーズン。その中の多くはU19Bチームに所属することになります。そのチームを率いるということは、お互い既に深く知り合っている状態でチーム作りをスタートさせることができる。半年分の時間をプレゼントされたことと同じです。「こんな美味しい話は他にはない。何で今まで気づかなかったんだ。」ということで、早速ディレクターに電話をしました。彼は早速折り返し電話をかけてきてくれました。「是非、これまで指導してきたメンバーと一緒にU19年代を戦いたい。」と伝えたところ「クラブの人間と話をして改めて連絡をする」と言ってくれました。

しかし、その後一週間経っても、二週間経っても連絡がありません。三週間が経ちました。少し変な予感がしていました。とうとう四週間経つかというところで僕の方がら再び連絡を入れ、会うことになりました。オファーの中身は自分が予想していなかったU19Cチームでした。勿論彼も僕がこのオファーを好まないことは分かっているようでした。僕は残念な気持ちでオフィスから出ました。「(チーム探しは)振り出しに戻ったな」と思いました。そしてその2時間後くらいだったでしょうか。別のクラブからの新たなオファーを伝える電話が鳴ります。魅力的なプロジェクトの話でした。

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