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スペインでチームを率いる19-20(8) コロナ危機下でサッカー指導者ができること 1  

スペインでは、非常事態宣言が出されて1ヶ月以上が経っています。引き続き、政府によって指定された理由なしに外出することは禁止されています。警察が街でそれをチェックしています。違反者には罰金が課されます。「小さな子ども達の外出許可を出すべきだ」と世論が訴えています。子ども達の健康的な成長に悪影響が出始めているのでは、と専門家達が危惧しています。

この期間「自分は何ができるんだろうと」と考えることが多くなりました。それぞれの立場から、それぞれができることを考える。我々のように、日々サッカー現場に立ってきた者は、何ができるのでしょう。まず取り組む先は、選手達だと思います。彼らに対して、何かできることはないでしょうか。

試しにやってみた2つの活動

スペイン政府から非常事態宣言が発表されて、すぐのこと。自クラブのフィジカル部門からTRメニューが発表されました。これらのメニューは、各学年に帯同するフィジカルコーチを通じて、クラブ内全ての選手に送られます。そして選手達はそれを自宅でこなします。スマホで撮影したものを送るように、とも指示されていました。あと体重も。

状況が状況だけにこれらは全て任意。「できる範囲でやりましょう」と言う感じです。ですので、選手達がそれをやっているかどうかは、わかりません。そして、特定の選手達以外からはビデオは送られてきませんでした。当然と言えば当然ですよね。だって、そもそも、おもしろくない、ですもんね。

しかし。その後、追って政府から発表がありました。外出禁止期間の延長でした。これで少なくとも6週間は家から出られなくなりました。「これはさすがに長いぞ」と言うことで自チームスタッフで電話ミーティングをすることにしました。「もう少し何かできないかな?」と。それまでの7ヶ月、ほぼ毎日のように顔を合わせてきたメンバー。スタッフを含めたこれら27人が急に会えなくなることに、何かこう、危機感を覚えたからです。

結局、あまり良い案は思いつきませんでした。できる事ってあまりないのかな、とその時思いました。その中で実施することになったのは2つ。一つは「チーム全体で前述メニューをこなす」というもの。もう一つは「グループワーク」。いずれもオンライン会議ツールを使ったものです。

どのツールを使うか悩みました。まずはZoomやJitsiを使い始めました。が、それらのセキュリティ問題で世間が騒がしくなりました。幾人かの選手の家庭からも反対が出て、チーム活動としては使えなくなりました。今、こちらでも色々な会社がその利用を見合わせています。色々僕らなりに調べた結果、全体ではグーグルMeetを使い、グループワークではSkypeを使うことに。より名前の通った「老舗」がより安全じゃないかと。

不思議な感想

打ち合わせをしていた時に、あるスタッフが言いました。「1回目のフィジカルTRは、全員集まるのは無理だろうね」と。僕もそう思いました。低く見積もっても「初回は半分が集まったら上出来だろう」と思いました。24人の中学生が同時に集まらないといけない。そこに強制力はない。しかも、告知したのは二日前。技術的な問題も出てくるでしょう。参加できない理由なんて探せばいくらでもある訳です。僕はこちらに来て10年になりますが、この国の「言い訳を探す反射神経」には何度も驚かされてきました。ですので、初回から全員が集まる、なんて不可能だと思いました。

その初日。時間になると、各選手が画面に徐々に登場して来ました。皆、自分の部屋かリビングからスマホで繋げています。妹や弟の声が聞こえてくる画面もありました。そして、蓋を開けてみると、指定された時間に、誰も欠けることなく、全員が集まりました。びっくりです。画面に27人全員の顔が映し出された時は、何とも言えない、嬉しい気持ちになりました。そして同時にこうも思いました。「みんな、集まりたいんだな」と。

エクササイズが始まります。フィジカルコーチが音頭をとります。時間で言うと、20分くらいでしょうか。負荷の高いメニューです。画面越しに、フィジカルコーチが各選手の動きをチェックします。必要であればマイクで修正を加えます。

半分を超えたくらいから、選手達から笑顔が無くなっていきます。息が荒くなります。顔が赤くなります。汗が滲み出ます。全員が必死に取り組んでいるのが印象的でした。僕やアシスタントコーチは何をしているか。技術的な指導はできないので、選手の名前を呼んで応援するくらいです。「頑張れ」「いいぞ」と。終わった後はキャプテン達を中心に「いいぞダノク!」と言った声かけや、拍手をしている選手も見かけました。

不思議でした。たかが20分。メニュー自体、普通のもの、です。むしろ、一人だったら面白くなくてやらないようなメニューです。日々のチーム活動の中であれば「面白くない」「早くボール使いたいな」と言って嫌がられるようなものです。にも関わらず皆が真剣に取り組んでいました。

指導者ができること

この1回目のセッションが終わってから、ふと思いました。このセッションが持つ目的って何なんだろう、と。家から出られない。学校もない。大好きなサッカーもできない。そんな状態の選手達にとって、まず身体を動かす場所を提供すること、これが最初の目的でしょう。それはパフォーマンスの低下を抑える、という目的だけではなく、同時に、健康の維持という意味でも。しかし、他にもきっと目的はあるなと思いました。もしかしたら、それはより価値の高いものかも知れないなと思いました。

「みんながみんなの顔を見る場所」を提供する。

「皆んなが集まって一緒に何かを達成できるような場所」を提供する。

これだなと思いました。きっとこれが一番大事なことだなと。これらの活動を通じて、選手達は少しでもチームの中にいる自分を再確認できます。一緒に身体を動かしながら「自分には所属する集団がある」「仲間がいる」と感じることができます。

セッションを終えた選手達はすごくいい顔をしていました。これは今、僕たちサッカー指導者しかできません。なぜなら、同じことを学校の体育の授業でやるのとは違うからです。彼らの場合、これはきっとサッカーチームでなければできなかったことだと思います。なぜなら、サッカーという彼らにとって特別な存在を通じて行う活動だから。そしてそれができるのは、日々彼らとそのサッカーを通じて一緒にいる現場の指導者だけだと思います。

まだやられていない方、是非一度試してみてください。

グループワーク編については後日掲載します。

サッカー指導者

岡崎篤

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