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スペインでチームを率いる19-20(6)サッカー界を生き抜く上で最も必要な武器

スペインでは今、感染者拡大のピークを迎えようとしています。「あともう少しで峠を越えるぞ」ということで少し気運が高まって来ています。同時に外出禁止の生活に徐々に耐えられなくなりそうな空気も見受けられます。きっと日本もそうだと思いますが、テレビも新聞も、ラジオも、みんなコロナ問題ばかりを扱います。でも四六時中コロナについて考えるのもよくありません。今日も少し我々の職業について考えましょう。今回は、自チームで壁にぶつかり葛藤する選手達を見ながら感じることについて。

ダノクと言えば4-4-2

今自分が所属しているクラブの名前はDANOK BAT(ダノク・バッ)。ダノクと呼ばれています。同クラブのサッカー場は「Mallona(マィョナ)」と言い、この地域のサッカー界の聖地のような存在です。ビルバオの最も古いエリアである旧市街地に位置しており、サッカー場の門をくぐると独特の空気を感じます。そんなマィョナで試合が行われる場合、相手は萎縮します。言葉ではうまく説明できません。歴史がそうさせるのでしょうか。その雰囲気がそうさせるのでしょうか。僕も去年までアウェーチームとしてこのサッカー場で試合をしていたので良くわかります。アウェーチームを緊張させる特有のパワーをこのサッカー場は持っています。ただ緊張するのはアウェーチームだけではありません。ホームの僕たちも緊張します。ホームの試合には会長、副会長、育成ディレクター、メソッドディレクターが観戦しています。彼らは何十年もこのクラブに所属し、このクラブを創り上げてきた人たち。当然ですが、最もダノクのことを知る人物たちです。そんな彼らによって各学年がダノクの名前に恥じない戦いをしているかチェックされています。

ダノクのサッカーとはどんなサッカーなのか。まずこのクラブで働く以上、覚悟しなければいけないことがあります。それは採用するシステムです。そこに指導者の選択の余地は与えられません。「442(フラット)」。「ダノクといえば442」。これはこの地域での常識になっています。卵が先か鶏が先か。システムが決まっているということは、具体的にどんなサッカーをするかも決まってきます。目指すサッカーが決まっているから、442を選ぶことになったのかも知れません。どちらが先かはわかりませんが、とにかくこのクラブが体現するサッカーも決まっています。自チームがボールを持っている時は「どんどん動いて」「とにかく縦に」。相手ボールの時は「前からアグレッシブに」。長いパスも、ショートパスも両方使います。そして後ろでゆっくりボールを回すことはあまり良しとされません。できるだけ速く相手陣地に侵入し、できるだけ多くフィニッシュまで持って行くことが良しとされます。相手をインテンシティと覇気で圧倒する。そんなサッカーがダノクのサッカーです。ここまでプレーモデルが一貫されているクラブは稀です。

一年目で経験するダノク・スランプ

ある意味特徴的なサッカーをするダノク。ここに移籍して来る選手は苦労します。まずは精神的な葛藤と戦わなければいけません。なぜなら「もうお前は一番じゃないよ」と毎日毎日無言で言われるようなものからです。殆どの選手が「出世移籍」でやって来ます。つまり、ダノクよりステータスの低いクラブからやってくるケースが多いわけです。これまで自チームでは超主力だった彼らは、ダノクにやってくると、ただの一員になる。もう甘やかしてくれません。それがどう影響するのか?例えば、守備面でのタスクが増えます。「サッカーってこんなに守備をしなくちゃいけないのか?」と思うわけですね。ただ、これまで仕事量が少なかったのは当然です。なぜなら、周りの「自分より劣る選手達」が多く働いてくれていたのですから。

そして一番苦労するのは戦術的な部分でしょう。「ダノクのサッカーへの適応」です。433や4231で、ポジショナルプレーを志向するチームが多い今のサッカー界。そのサッカーに慣れた選手がダノクのサッカーに放り込まれると、どうなるかはご想像の通りです。スランプに陥ります。   

中盤の選手を例に挙げてみましょう。単純にこれまで3人でやっていた仕事を2人でしなければいけなくなります。ビルドアップではこれまで「動くな!ボールが動くんだ!」と言われていたのに、ダノクでは「お前も動くんや!」と言われます。動かないと味方にパスコースを提供できなくなるので。でも動きながらボールを受けるというのは止まってボールを受けるより難しいこと。しばらくの間、ボールロストを連発します。ボールを受けたら受けたで、また別の課題に出くわします。前線に常に2人フォワードがいるということで、短いパスコースばかり探していると周りから怒られるわけです。長いプレーが増える分、そのこぼれ球を拾いに行く為の業務が増えます。フィジカル的にピッチを広範囲に埋めれる能力が求められます。守備面でも同じです。相手は3人でくることが多いので、数的不利下で守備をすることを余儀されます。ゾーンの意識を教育されていない選手は苦しみます。またボールにプレッシャーをかける時、コースを切る癖がない子はチームに迷惑をかけます。

こうやって色んな場面で難題にぶち当たるわけです。こうやって多くの新人は自尊心が傷つけられ、元気がなくなっていきます。自ずとパフォーマンスが落ちていきます。これまで当たり前にできていたプレーまでできなくなってしまう時も多々あります。スランプです。

如何に自分を信じられるか。そして指導者は?

こういったケースを見て感じること。それは、結局はメンタルが一番大事だな、ということです。これは今回の話に限ったことではありません。サッカー界で上を目指し続ける以上、こういったケースに何度も出くわし続けることになります。これは終わりの無いサバイバルゲーム。

この世界で生き残り続ける上で一番大事なことは何でしょう。必ず持っていなければいけない武器は何でしょうか?それはきっと「自分自身への信頼」だと思います。これ無くしてサッカー界で遠いところには行けません。この先何が起こるかわからない自身のキャリア。心の拠り所になるのは、如何に自分を信じられるか、です。目の前に現れた困難を乗り越える際、如何に地に足つけてその問題を直視できるか。自分を信頼できないとその場から逃げてしまいます。

どうすればこの自信を持てるのか。それは過去に挫折を乗り越える自分を見てきたかどうか、だと思います。ソフトバンクの孫さんが言います。「僕には根拠のない自信があった」と。でもきっと根拠はあったはずです。その自信は過去の成功体験の積み重ねからくるものでしょう。その自信は幼少期から小さな勝利を通じて確立していったのだろうと思います。

僕たち指導者は、この自信が作られるプロセスに寄り添う準備をしておくべきです。芽生えつつある自信に気づいたらそっと邪魔をせずに見守ってあげる。これが我々が最低限するべきこと。肝に命じておかないといけないのは、その芽を根こそぎ引き抜いてしまうことができるのも、我々指導者だということです。時にサッカーの専門知識は危険な存在です。全てそれで解決しようとしてしまうからです。周りからも続々とコメントが届きます。「あいつは使えない」「態度が悪い」「ポジションを勝ち取る決意が足りない」「週末はベンチ外にするべきだ」「そもそもダノクにいるレベルにない」etc。でもきっとサッカーの専門知識というメガネを外さないと見えない問題をその選手は抱えているはずです。

そのためにはまず、各選手がどういった状況にいるのか知らなければいけませんね。だからこそ選手を観察します。だからこそ情報収集を行います。だからこそ、直接話を聴きます。そして最後に対話をする。この段階で初めてサッカーの知識が活躍します。選手の意識に自分も潜り、同じ景色を見ようと努力します。そして目の前にいる選手に発問をしながら自分のサッカーの引き出しを開け始める。学びの専門家マリアさん(元Aビルバオアカデミー・現カタールAspireアカデミー)は言います。「自信というのは人に貰うものではなく自分で創り出すもの」「外からではなく中からしか生まれない」と。選手が自分で問題を解決し、再びピッチ活躍する時、その選手は自信を得たと言えると思います。(マリアさんのビデオはこちらで販売しておりますhttps://vimeo.com/ondemand/mariaruizdeona/180725016

最後にこれも記しておかないといけません。大事なことです。それは残念ながらサッカーには時間がないということです。ある選手の成長を優先して、チームをおざなりにすることは許されません。そういう意味では途中で見切りをつけて選手を突き放さないといけない瞬間もあります。その時にその選手と別れることになることも覚悟しなければいけません。心が痛みますが、鞭を打って決断しなければいけません。エイバルの通訳時代、メンディリバル監督が選手達に向けてこんなことを言っていました。「残念ながら俺はお前たちの友達になることはできないんだ」と。これもまた現場の人間にとっては知っていなければいけない事実です。

サッカー指導者

岡崎篤

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