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アスレチック・ビルバオ下部組織(3) 〜指導者を育成する心理学者〜

 アスレチック・ビルバオ下部組織の取り組みを数回の記事に分けて紹介しています。これまでの記事では個の育成に関する考え方その方法論に触れてきました。今回の記事では同クラブ下部組織でどういった考えのもと指導者の育成を行っているのかついて考えていきたいと思います。同クラブ下部組織指導者育成を語る上で欠くことのできない人物がいます。その名もマリア・ルイス・デ・オニャ(写真上、以下マリア)。心理学を専攻する彼女は20年心理学者としてアスレチック・ビルバオ下部組織を支えている存在です。

自立した選手を育成する

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サッカー選手がトップレベルで活躍する為には各個人が自立した存在であることが重要だと言われます。同クラブも各選手が自立した選手に育つことを重要視し、育成の主な柱に据えています。長い年月を経て自身の頭で考えることのできる選手や自身で判断を下すことのできる選手でなければ要求度の高い同リーグで活躍し続けることは難しいという結論に行き着いたのでしょう。そして自立した選手を育成する為には下部組織において考えることを育成する文化、判断することをを学ばせる文化が存在しなくてはいけません。これらはサッカーを学ぶことと同じくらい重要視されるべきだとマリアは言います。同クラブでは2004年からそういった自立した選手の育成に熱心に取り組んでいます。「自立した選手を育てる。」このテーマは非常にグローバルで取り掛かるのが難しいテーマです。なぜならサッカー選手を育成するだけではなく、人間を教育することが含まれるからです。決してサッカーについて話をするだけではいけません。感情、道徳、責任といった選手の人間的部分についてアプローチしなければいけないからですね。

選手育成から指導者育成へ

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マリアは20年同クラブに勤務する中で組織内における彼女自身の機能は変化してきたと言います。当初は選手達への心理学的アプローチが主な業務だったそうです。選手のモチベーション、集中力、感情のコントロールを手助けするといった内容がそうでした。しかし選手の自立というテーマが重要視され、そのテーマを掘り下げていけばいくほど主にアプローチするべき対象は選手達ではなく選手達が身を置く環境全体であることに気づいていきます。そしてその環境に大きな影響を与えている存在が指導者達です。なぜなら指導者が自身のコミュニケーション力を向上させ、ミーティングの運び方がより巧みになり、選手達により響く・届く存在になるということは、選手達を取り巻く環境が改善されるということを意味するからです。ですので彼女の主な業務は指導者の育成です。同クラブ下部組織の指導者は学習とは何なのかについて精通した人間でなければいけません。選手達に学習の主導権を持たせることを知らなければいけません。彼らの思考に寄り添うことを知らなければいけません。選手達との日々の議論の中で選手が自身の可能性や課題に直面するよう導びくことを知らなければいけません。その為には「聞くこと」「質問すること」というのは大事な道具になりますし、これらの道具を指導者は上手く使い分られなければいけません。アスレチック・ビルバオ下部組織で働く指導者はサッカーの指導に精通するだけではなく学習のエキスパートであることが求められるわけですね。スペイン1部に所属する他クラブでこのような取り組みをしているクラブがあるのか?という質問に対してマリアは「その数は限りなくゼロに近い」と答えます。「指示や知識を伝えることをベースに現場が回っている場所が殆どだと言えるでしょう。これは選手達が具体的に実行するべきアクションを伝達する指導法ですが、ここでは考えることも判断することも考察することも育ちません。指導者と選手の関係も一方的になりがちで対話も殆ど育つことはないでしょう。つまり、学習が存在しづらい環境だと言えます。」

心理学的取り組み

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様々な方法でもって指導者の育成が行われます。その一つにマリアは定期的に各指導者達とミーティングを行います。そこで彼らはマリアに対して前日にどのようにトレーニングを行ったかを描写します。そこではチーム全体がトレーニングに対してどのような姿勢で臨んでいたか、積極的に参加ができていなかった選手がいなかったかどうか、ミーティング中そしてトレーニング中にどういった議論が交わされたか、といった内容が話されます。マリアは各チーム活動にも参加し、更衣室に入りミーティングを観察したりトレーニングを観察したりします。そこでは指導者がどういったカタチで選手と関係を作っているのか。伝えることだけに偏っていないか。聞くことがどこまでできているのか。選手との会話を質の高い議論にまで誘う(いざなう)ことはできているのか。といった点がチェックされます。そしてその後マリアはその指導者とミーティングを行い観察した内容をフィードバックします。同クラブ下部組織に新しいスタッフが入ってきた際は必ずといっていいほど壁にぶつかります。なぜならそれまで培ってきた経験やノウハウと大きく違った方法論をアスレチック・ビルバオ下部組織では求められるからです。前回の記事でも紹介したように練習メニューを考案させてもらえないこともそのカルチャーショックの内の一つでしょう。そもそも指導者に求められる機能が他のクラブと大きく違うからですね。こういった大きな変化を目の当たりにした時、中には自分の身を守ることを優先し適応することを拒否してしまう指導者がいます。マリアはそんな彼らに心理学部門のスタッフとしてその適応に寄り添います。またメンタリングという指導者間の学習網を通じてその新人スタッフをサポートするシステムも機能しています。長年同組織で活動するベテラン指導者がメンターとなり新人スタッフの活動を監督することで新しい指導者が同クラブの哲学を理解することをサポートするシステムですね。尚、マリアによればアスレチック・ビルバオ下部組織に入ってきた指導者が一人前の指導者-教育者になるためには約8年の時間が必要だそうです。

今回のテーマは以上です。

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