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スペインでチームを率いる⑶ チームと個人どちらにアプローチしていますか?

自チームの長いリーグ戦が終了しました。アウェーでの直接対決を何とかものにし、一番高いカテゴリーへの昇格プレーオフの切符を手に入れることができました!これは100年以上続く同クラブの歴史の中で初めてのことだそうです。現在は来週に控えた昇格プレーオフに向けその準備に追われています。泣いても笑ってもラスト2戦。悔いのないように頑張りたいと思います。30試合続いたリーグ戦を振り返ってみると、チームは右肩上がりにパフォーマンスを上げていきました。色んな意味で不安定な部分が多かった前期に対して、大きな成長を遂げたのが後期でした。それは数字にも表れています。22ポイント(6勝5負4分)を獲得した前期と33ポイント(10勝2負3分)の後期。一年を通じてチーム全体が成熟していったのを感じるシーズンでした。それは戦術的にも、技術的にも、そしてチームの団結という意味でもです。entrenarenespana3-1

アプローチすべきは個人

サッカーにおいて監督の仕事は何か?それはそのチームのポテンシャルを引き出しチームとして最高の結果を出すことです。選手の仕事は?それはチームの為に自分が求められるプレーを如何に実行することができるかです。それはピッチに立つ11人が如何に協力して一つのものを作れるか、がサッカーという競技では鍵になるからですね。そういう意味でチームという存在は最も優先されるべき存在です。強化すべき対象はチームです。ただここに一つの落とし穴があります。チームに対してのみ指導をしていては壁にぶつかると言うことです。チームだけを対象に指導していては結局チームとして伸びてこないと言うことです。一つ例を挙げてみましょう。自チームがビルドアップ中にミスが起こり失点してしまったとします。それはチーム内の誰かが戦術・技術的なミスをおかし、それらが連鎖した結果起こった現象です。あくまで個人レベルのミスが原因です。ではしばらくしてそのビルドアップが改善されたとしましょう。それはなぜだと思いますか?それはきっと複数の個人がビルドアップの際に必要な何かを習得したからです。もしくはこれまでプレーしていなかった別の優秀な選手がプレーしたからということも考えられます。メンタルの話でも同じです。チーム全体の団結が深まったとします。それは幾人の個人が変化したからでしょう。いずれのケースも結局は個人レベルでの変化があったんです。何が言いたいかと言うと、チームが成長する為に個人の変化が必要だと言うことです。全く異なった特徴や問題を抱える個人を十把一からげに均一のアプローチをしている指導者がいます。これでは改善できる幅に限界が出てくるのは目に見えています。当たり前のようでありながら意外と多くの指導現場で起こっている問題です。少なくともこちらスペインはそういった問題をよく見かけます。多くの指導者が”全体”だけを対象に指導をしているんですね。それは間違いだと思います。チームを作る上で、最もアプローチするべきはあくまで個人です。全体を変えるには個人を変えなければいけません。僕はそう考えて日々チームを作りに励んでいます。

個人的な対話

日々の活動で選手とサッカー以外の話をする機会と言うのはどれくらいあるでしょうか?僕のチームでは練習後まとまってストレッチをする時間があるのですが、その時間の裏テーマは選手たちの雑談を聞くことです。小さな円になってアシスタントコーチが主導でストレッチをします。その円の中を僕は散歩します。そこではリラックスした16歳の選手たちの世間話や冗談話が繰り広げられます。みんなで笑いあるとても楽しい時間です。一年間これを続けると選手各自の人間性がたくさん見えてきます。ただ、もちろん深い話にはなりません。ですので時には個人と対話をする必要が出てきます。そんな時に気づくんですね。毎日のように顔を合わせていながら、じっくり話す時間というのはあまり存在しないんだなと。基本的に選手はサッカー場に来て、練習をして、シャワーを浴びてさっと帰ってしまうものです。対話の空間は指導者が意図的に作ろうしない限りありません。僕の場合この間はこんな話をしました。ある選手のパフォーマンスがいつもより著しく劣ったので気になって話を聞こうと思いました。試合中彼の中で何が起こっていたのかを聞いたところ、最終的に話のテーマは”緊張”の話になりました。他にも、こんな選手と対話しました。大事な試合でスタメンに選ばれず、気持ちが下がってしまった選手です。その選手はその日チームより自分を優先する行動に出てしまいました。このように選手との対話の中で扱うテーマというのはサッカーと直接関係のない話が多いものです。

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試合中のプレーについて

戦術技術の話をじっくりすることもあります。ただ上記のようなスタイルの対話が向かないこともあるんだなと最近気づきました。何故なら具体的な状況をしっかりイメージできないまま具体的なイメージが必要な話をする必要があるからです。「前の試合のあのプレー覚えてる?」といっても大抵の場合、選手はうる覚えなことが多いですよね。そうすると上手く選手とそのイメージを共有して話を進められずに終わってしまうことがあるんですね。

僕は試合をすべて撮影しています。それは自分で後で見る為です。自分が指導者として何が見えていたのか、何が見えていなかったのか再度映像を見ると多くのものが見えるからです。また同時にそれは選手との対話のたたき台として使うこともあります。今では簡単に携帯電話で動画のやりとりができるようになりました。僕は各選手に気になったプレーを20秒程の動画にして送ります。その際、選手にとってストレスなくその映像にアクセスできることが大事です。例えば一度パソコンを開いてダウンロードしなくてはいけなかったり、別のアプリを開かなければいけなかったりするのはダメです。選手にとって手間が増え、長い目では続きません。そういう意味で日頃から使っているアプリ(日本ではLINE)がいいですね。まずは動画と一緒に「このプレーについてどう思う?」と問いかけます。特にその選手にとって新しい知識を身につけてほしい時はしっかり聞きたいものです。その選手の目からはどんな景色が広がっているのか。時にはその返ってくる答えに驚かされ、自分が勉強させられることも珍しくありません。その反対もケースも。既に何度もその選手とは同じ話をしているにも関わらず同じミスを繰り返している時など。そんな時は動画と一緒に「全然あかんな」と一言だけ送ってもうそこから会話を続けないよう突き放すこともあります(次の練習での本人の反応見るわけです)。こうやって試合直後に個別で話をしておくことで、週明けトレーニングが始まるときには各自がそれぞれ自分のプレーに対して問題意識を持った状態で練習に臨むことができます。トレーニング中の選手とのやり取りスピードも上がります。指導者はもう既に各選手との会話は終わっていますので、発問したり少し思い出させる刺激を与えるだけでこちらが何を求めているのか、そして選手側もその理由もわかるわけですね。

練習中のプレーについて

練習も毎度撮影しています。これも指導者として見えていなかったものを後から見れるようにするためです。そして同時に選手との対話で使う為でもあります。練習中は兎に角メニューがどんどん進んでいくのでゆっくり話す時間がないですし、その後対話することを忘れて解散してしまうこともあります。そんな中、こちらがトレーニング中に修正したポイントを選手に理解してもらえず、メニューが流れていくことがあります。こう言った場合はその日もしくは翌日、そのシーンを切り取って映像を選手に送ることで理解を深めます。自分が伝えたかった意味を説明するわけですね。もしくはトレーニング中にしっかり強調したものとても大事なことだから改めてそのプレーを強調したい時があります。そう言う時も映像を送ります。「これね、言ってたやつ。」という具合に。すると大抵の場合「あぁ、オッケー」と返事が来ます。こういった選手との小まめなやり取りを1シーズン続けていくことどうなるか。”チームは”成熟していきます。

練習中よくしゃべるね、とこちらの指導者からも言われます。でも僕にとっては必要だからそうなっています。今年のメンバーは19人にいるのですが、トレーニング中はそんな彼らが毎秒同時に決断を下しながらアクションしています。彼らのその決断・アクションについて評価(発問、指示、称賛、叱咤)をしようとすると、一つしかない口から沢山の言葉が出てくるのは当たり前ですよね。ちなみにそれらは選手個人に向けてパーソナライズされたものであるべきです。極端な話、同じようなプレーをした2人の選手がいたとしても、ある選手には強く叱咤し、もう一人の選手には大きな称賛の声でハグをしてあげる時もあってもいいと思う分けです。entrenarenespana3-3

チームを率いるというのはプロジェクトを進めることと同じです。1ヶ月や2ヶ月でできるものではありません。それこそシーズンが終了し、チームが解散するまでそのプロジェクトは進み続けます。そして個人が成長する限りチームは成長し続けます。それが個人の伸びしろが大きい育成年代のチームなのであれば尚更です。チームを強化するために我々指導者がするべきことは、個人の開発です。チームを強化しようとすればするほどそのベクトルは個人に向かうべきです。ある意味チームは存在しません。これは僕の意見ですが、皆さんはどう思いますか?チームと個人どちらにどれくらいアプローチしていていますか?

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