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育成年代における「自分たちの」サッカー?

スペインのシーズンは秋に始まって夏前に終わります。それは学校行事も仕事もサッカーも同じです。そういう意味ではこの時期、心身ともに疲れが溜まってくる時期です。シーズンも終盤に入ろうとしていますがまだラストスパートには少し距離があるという何とも言えないタイミングなんですね。そしてクリスマス休暇で得たフレッシュさは少し前に消えてしまっています。一方で日本はどうでしょうか。春の日本は違っていて、節目の時期ですね。サッカー現場では新チームが立ち上がって暫く経っている頃だと思います。そろそろ公式戦が始まろうとしている時期ですね。皆さんのチームは今年どんなサッカーをしようとしていますか?特に育成年代を中心に指導されている方にお聞きしたいです。

こちらの中学生世代のサッカー環境

今季自チームはリーグ開幕から3連敗を喫し、16チーム中最下位からスタートしました。そこから徐々に順位を上げてきた僕たちは今週末初めて4位にまで順位を上げることができました。今季4位以内でリーグをフィニッシュすると昇格プレーオフに回ります。プレーオフでは隣県上位との対決が待っています。自クラブはまだこの年代のチームを昇格させた経験がありません。そういう意味でチーム内の士気はもちろんクラブ内の期待も高くなってきている最近です。

県内にはU16世代のチームの数はざっと計算して200程存在します。それらが5段階のリーグに別れてプレーしています。一番上は県を跨いで行われる州リーグ。その下に県1部(1ブロック)、県2部(2ブロック)、県3部(3ブロック)、県4部(6ブロック)と大きなピラミッド形式になっています。僕が責任者を務めるデウストU16Aは県1部に所属しています。県の人口は110万人。日本でいうと石川県、大分県と同じくらいでしょうか。その県内に02,03年生まれの選手によって構成されるチームが200もあり、更に人口芝のサッカー場は県内に150面を超えるというのですから驚きです。この県のサッカー熱の高さはスペイン国内屈指と言われていますがそれも頷けます。

チームを率いる=プロジェクト

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サッカーにおける日本とスペインの違いは?という問いをよく見かけます。ただこれは答えるのが途方もなく難しい質問です。なぜなら地理的にこんなにも遠い距離にある両国には文化・政治・習慣・歴史etc 全てにおいて違いがあり、サッカーというのはそれらが複雑に絡み合ってカタチになる現象だからです。もちろん、表面的には無限に違いが存在します。でも同時に根本はどこも同じだなとも思います。敢えて表面的な違いを一つ挙げるとすれば、それは年間リーグ戦が当たり前のように浸透しているかどうか。こちらスペインの人々からすればサッカー=年間リーグ戦。サッカーというのは30試合後の成績を競う戦いだ。そうじゃなかったらサッカーじゃない、という暗黙の了解を感じます。「サッカーと書いて年間リーグ戦と呼ぶ」といったところでしょうか。一方で日本はまだそこまでの感覚を持つことはありません。サッカーの始まり方や社会への受け入れら方違いますし、スポーツに求める姿が違うからです。ただ両国で共通することもあります。チームを1シーズン率いるというのは長いプロジェクトを進めていくようなものだとということ。決して最初の一、二ヶ月で出来上がるものではありません。時間をかけてその時のメンバー達と一緒になって豊かなものを創っていく。これがチームを率いることだと思いますし、それは両国で共通することだと思います。

自分たちのサッカーを造る上での留意点

シーズンがスタートする際には色んな状態のチームがあります。もう同じメンバーで昨年も活動していて選手のことをよく把握しているケースもあれば、知らないメンバーとスタートするケースも。今年の僕のケースは後者でした。新しいクラブに出向いた時には既に新しいメンバー19人が準備されていました。そしてディレクターからは「彼らと一緒にできるだけ良い結果を出してくれ。」と頼まれました。

さて、どんなサッカーをしましょうか。勝利を目指す以上できるだけ結果を出せるスタイルを模索したいものです。チームが良い成績の残す上でリーダーは何をすべきでしょうか。大事なことの一つに、全ての選手が「自分は重要な存在だ」と思う空間を作るというものがあります。モチベーションの高い選手達から出てくる心のエネルギーはチームに活力を与えてくれます。トレーニングの質が上がります。指導者の話を食いつくように聴き始めます。試合中自分がベンチを温めていてもチームを心から応援したくなります。そういう団結したチームは周囲も応援したくなります。応援されるともっと頑張ろうと思います。こういった空間を指導者が意図的に作ろうとするべきです。

また、そもそもですが育成年代であるのですから出場機会を確保するのは当たり前のことです。基本的に皆が試合に出るべきです。特定の種類のサッカーに固執する指導者がいます。でも待ってください。その隣にはその指導者から出場機会を与えられず、罵倒され、怯えた顔で「ほんまにサッカー好きなんか?」と聴きたくなるような子ども達がいませんか。そんな選手達がきっと世界中で大量生産されているんでしょう。悲しいですがきっと事実です。これは指導者側の不備がもたらすサッカー現場での虐待だと思います。俺たちのサッカーという言葉を盾にした知識不足。年齢が上だから、コーチだからを盾にサッカーを勉強しようとしない怠慢な姿勢。これらが子ども達が持つサッカーへのときめきを踏みにじっていくんです。話が少し逸れました。何が言いたいかと言うと、チームが目指すべきサッカーは「選手みんなの良い部分全面的に出るサッカー」です。育成年代の指導者はそんなサッカーを目指すべきです。

各々の良さが出るサッカーを目指してentrenarenespana2-2

 

今季の僕の場合はやろうとするサッカーは変遷していきました。最終的には大きく2つの種類の異なる種類のサッカーを表現してます。一つは皆が各ポジションに各自が立って細かいパスを中心にボールを動かして前進するサッカー。もう一つは長いボールを積極的に使用し前線の選手たちがどんどん動きながらスペースに関わっていくスタイルのサッカー。この二つは全く異なる種類のサッカーです。決してシステムについて話しているわけではありません。

二つを使い分けることで全てのタイプの選手が自分の良さを活かしながらプレーすることができるようになっています。やってよかったなと思うことは一方のサッカーではなかなか自分の良さが活きない選手でも、もう一方のサッカーであれば自分の良さを出せる選手がいるということです。前述のようにチームメイトから認められ、チーム内に自分の居場所を確保することができるようになります。もちろん絶対的な中心選手が4,5人います。彼らはどちらのサッカーをするにせよ軸となる存在です。残りのメンバーを試合の種類に応じてローテーションして行くスタイルで現在やっています。また怪我もつきものなのである選手の怪我が理由で一方のサッカーができなくなってももう一個の方で戦うことができます。これは指導者側によるかなりの工夫とそれに費やす時間が必要になります。これは僕の中でも新たな挑戦でした。なぜなら選手を混乱させるだけで終わり、結局チームはどちらもうまく操縦できずに終わってしまう可能性があったからです。リスクはありましたが、選手が必死についてきてくれたおかげで2つともカタチになりつつあります。それによってシーズン終了まで二ヶ月を残した段階で自チームが2つの武器を持つことができました。相手は分析しづらいだろうと思います。

選手のことを知りながら、同時に結果を出すentrenarenespana2-3

この文章を書きながら何を大事にしてきたのだろう?と振り返ってみます。すると常に各選手の良さが出るサッカーを常に模索してきたこと、が思い浮かびます。それが結果的に2つのサッカーに取り組むことに繋がったように思います。そういう意味では如何に選手のことをよく知ることができるか、が全てでした。皆さんは目の前にいる選手達のことをどこまで知っていますか?

ピッチ内での各々のプレーはどうですか?感覚でプレーするタイプなのか、それとも頭で考えてプレーするタイプなのか。静的なのか動的なのか。サッカーのアイデアが豊富な選手なのかそうでないのか。ストレスが強い中で自分のプレーに集中できるのかそれとも直ぐに集中が他(レフリー、相手、客席etc)に向いてしまうのか。これまで受けて来たサッカー的教育はどんなものなのか。足は速いのか。長いプレーと短いプレーそれぞれどう扱えるのか。どのタイプのキックが得意なのか。どのタイプのコントロールが得意でどれが苦手なのか。球際は強いのか。空中戦は強いのか。落下点は読めているのか。

ピッチ外はどうでしょうか?誰がサッカーが好きで誰がそうじゃないのか。誰が本当に頼りになる選手なのか。トレーニングに対する姿勢はどうか。実際に緊張した試合で日頃の力を発揮できるのは誰なのか。自分が試合に出ない時はどんな反応をするのか。時間にはルーズではないか。練習前後の道具の準備片付けに対する姿勢はどうか。怪我への耐性はどうか。誰と誰が仲がいいのか。誰に彼女彼氏がいるのか。学校の成績は。そして一番大事なのは家庭環境です。

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これらはチームを立ち上げた当初は全く見えないものです。練習試合で過ごすプレシーズンでも見えず公式戦が始まらないと見えないことも沢山あります。本当によくわかろうとするには1年近くはかかるでしょう。ただ一番の問題はその作業と並行して、試合で結果を出し続けなくてはいけないということです(笑)。両方を同時にやらないといけない。チームを率いるというのは本当に難しいですね。

 

Comments

  1. 島田哲夫 says:

    実に、豊饒なる分析と流麗な岡崎哲学!さすがです。何とか4位以内のポジションをキープしてプレーオフで勝利し、バスク州リーグで活躍してください、祈っています。

    • Atsushi Okazaki says:

      まだまだ道のりは長いですが、残り二ヶ月、毎試合の準備に集中していきたいと思います。コメントありがとうございます!